黒の日記

とにかくひどい

ニート生活15日目

 社会から離れたことでさして高くもなかった労働意欲がより一層低下し、もう社会復帰は望むべくもないだろうと思われたニート生活15日目。

 部屋は惨憺たる有様だった。

 6畳半の畳は脱ぎ散らかされた衣類やら転がるカップ麺の残骸やらコンビニ袋やら紙ティッシュやらで敷き詰められ足の踏み場はない。部屋の真ん中には敷布団の表面だけが辛うじて顔を覗かせており、僕はそこに寝そべっている。布団の周りを囲むようにして数々の文庫本が背の丈ほどの高さにまで平積みにされ、堅牢堅固な要塞の形を成していた。見ようによっては牢獄かも分からないが。ガスストーブの火を焚く音が絶えず聞こえる。可燃しきれなかったガスの残臭と成人男性特有の男臭い匂いが混ざり合ってこの密室に漂い、酷く居心地がよかった。

「もう、最高」

 常暗い部屋の真ん中、牙城に臥せって僕は呟いた。懐にスナック菓子を携え、顎の無精髭をボリボリかきながらYoutubeで千鳥の番組を見てまるでデリカシーのなさそうな笑い声を上げつつほくそえむ。

 ご覧の通り、連日の甘美なニート生活は早くも健全だった僕の精神を堕落させていった。不労者であることを完全によしとしていた。労働しないことに対して一切の抵抗が無くなっていたのだ。赤子が母親の乳を飲むように、僕は今さも当然の顔で親の脛をかじっている。

 最早親に対する罪悪感もない。

 親族どころか世間まで敵に回す覚悟さえできている。資本主義社会に対する謀反、1人ストライキプロテスタント活動と銘打ち、あろうことか働かないことに誇りを獲得しつつある。労働意欲がさらに低下する。昼間からビールを飲みたい。パチンコのハンドルを回す手が加速する。金銭感覚がトチ狂う。親の脛をさらに深くかじる。頼りの綱が一本、また一本と切れていくのをわかる。しかし何も思わない。何も感じない。僕は何をやっているんだ。

 

 誰か助けてくれ。