黒の日記

とにかくひどい

病み上がり。

 今日は普通に出勤してしまった。もうすこし風邪を理由に休みを引っ張れると思ったのに。残念です。

 事務所の扉を開けると、社員は全員僕に注目して目を丸くしていた。「なんで来たの?」とか「病原菌が。会社来るなよ」とか「やめたかと思った」とか「誰だ?」とか心配の言葉をたくさんいただいて胸が熱くなった。死のうかな。

 会社にいる間、いつも以上に頑張って仕事に励んだ。それは周りに「休んだ分の遅れを取り戻す自分」のポーズをとるためだった。そしてあわよくば無理することで風邪がぶり返し、早退できるかもと考えたからでもあった。

 午後11時。移動時は積極的に走り、先輩がやっている仕事さえも「やりますよ自分」と率先して仕事をする。普段では絶対みれない前向きな仕事への姿勢である。普段の倍は動いた。その甲斐あり、額にはびっしり汗をかき、病み上がり特有の頭クラクラ感がとても良い感じになってきた。ほおも火照ってきて体温が上がってきたのが感じられた。

 頃合いだろう。

 物陰に隠れ、自前の体温計を脇に挟む。あとは上昇した体温の値を上司の眼前に突きつけ、悠然と帰るだけだった。計画は完璧のはずだった。崩しようがない。ルイブール要塞が如く。家に着いてからなにをしようかという妄想を膨らませていたところでピピッ、と電子音が鳴った。周りの足音を気にしながら体温計を見る。液晶に表示された数値、36.4℃。非常に健康体。

 結果として普通に定時まで仕事を頑張っただけだった。明日こそもっと無理をして風邪をぶり返させてやろうと思った。