黒の日記

とにかくひどい

本当に再開

休日。昼頃、僕とA君は近所にある喫茶店に来ていた。窓際にあるテーブル席を選び、机を挟んで僕らは腰掛けた。今にも降り出しそうな灰色の雲が空にかかっているのが見え、そういえば今日の天気予報は雨だったと思い出した。

「一雨来そうだねえ」

僕は窓を見やって言った。「傘持ってくるの忘れちゃったわ」

「そうね。まあ行くとこもないし、しばらくはここで雨宿りしてようか」

A君は言うと、メニュー表を取り、ブラックコーヒーとパスタを選んだ。僕は普段、キッサテンのようなオシャレなところに来ないので彼を真似して同じものを頼んだが、ブラックコーヒーが卓上に運ばれてから「そういえば俺、苦いの飲めないや」ということに気づき、A君にコーヒーを押し付け、オレンジジュースを注文し直した。「ブラックコーヒー飲んだのはお前だから、お前がそのぶんを払うべき」と凄んだら鼻っ柱をグーで殴られた。お前ばっかりコーヒー二杯も飲んで理不尽だ、ずるい、と抗議したが、彼が聞く耳を持つ様子はなかった。

 しばらくお互いに黙ってパスタをくるくる巻いていると、A君は「そういえば」ととつぜん口を開いた。 

「お前、ブログ書いてたのどうしたん?」

僕はそれを聞いて一瞬思考停止してしまった。曇天からポツポツと雨が降り出し、窓を叩いた。窓外で、往来を通る人が雨除けできる軒下を探して早足に歩いている。飲み干したグラスの中の氷が溶けて底に落ち、カランと音を立てた。そしてようやく腐りきった脳が控えめに機能し始め、高校の頃の様々な出来事が逆流するように脳裏に蘇り、一年前に始めたブログのことを思い出した。その拍子に僕は「あぁ〜」素っ頓狂な声を上げてしまった。

「あぁ〜。じゃないわ」

A君は呆れた顔をしてからパスタが巻かれたフォークを口に運ぶ。「ま〜た悪い癖が出た」

「おっしゃる通りで………」

と、かしこまってたら、なんか一年前にもこんな会話をしたことがあるぞ、と思った。

 

そもそも、事の始まりは、文芸部に所属している身なのにもかかわらず、圧倒的に技術が足りない、と先輩に指摘されたことだった。文章の練習のため、また三日坊主を克服するためにブログを書き始めたのだ。結果としては過去の記事を見ればわかる通り、三日坊主に磨きがかかって終わってしまった。しかし抜け目のない僕はブログをはじめるにあたり事前にそうなることを予測していた。様々なケースを想定して対策を立てた。数少ない友達に相談を募った。その相談の相手がA君である。

彼にこれからブログを始めるという旨を話すと、「また突発的に何か始めるのかお前は」と彼は呆れ顔である。

「また悪い癖が出たね」

「おっしゃる通りですわ」

そしてA君に書いた記事の、文章の誤り、語句の誤用、添削をお願いしたのだった。

思い返して見たらまんま同じじゃん、 全く人間的に成長していないことがわかる。こりゃA君も呆れるわ。

 

「それで、どうするの?」

A君の声で僕は自己嫌悪から覚めた。

「は? なにが?」

「ブログ。やるのか、やらないのか」

A君のその言葉には異様に威圧感があった。あれだけ付き合わせといてまさか6日で書くのをやめるつもりか舐めてるのか?襟裾にパスタ流し込むぞ?と言いたげな顔をしている。どんな顔だ。

物を言わせぬ勢いに気圧されてつい「やります」と答えてしまった。

「やらなかったら殺すからな」

彼は笑ったが目は全く笑っていなかった。ていうかそう思ってたんなら当時に言えば良かったろうがバーカと思ったが怖くて言えず、机の下で中指を立てた。

 

 

ということで一年とちょっとぶりにブログを再開します。